きもの

第7回 小千谷縮

暑きものを着るのにちょうどいい季節になりました。でも暮春とも初夏とも言えるこの時季は、着るものに迷う時でもあります。一般的に5月は袷(あわせ)といわれていますが、日によっては25度を越すような夏日もあります。そんな日に袷は厳しいですね。お茶席など特別な場合は別として、個人で楽しむならしきたりに縛られる必要はないというのが最近の考え方です。単衣や紗合わせなど、その日の気温や体感に合わせて臨機応変なお洒落を楽しみましょう。今月は一足早く夏のきもの「小千谷縮」を取り上げます。

■ 第7回 小千谷縮 ■

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新潟県小千谷市周辺では古来より苧麻(ちょま)という上質の麻を原料とした麻織物が織られていました。江戸時代初期に、それまでの越後麻布に改良を加えて完成したものが小千谷縮です。さらっとして肌に張り付かない爽やかな着心地の秘密は、緯糸に強い撚りをかけ織り上げた後に湯もみを行うことで出る独特のしぼ。その独特の風合いが高い評価を得て、昭和30年に国の重要無形文化財に指定されました。また、小千谷縮は平成21年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。  春の風物詩「雪さらし」は、小千谷縮の指定工程の1つ。雪と紫外線の作用により発生したオゾンが麻布に含まれる色素を分解・漂白することで、白が強調され鮮やかになります。新品だけでなく、着た後のきものも雪さらしをすることで汗ジミや汚れが落ちてさっぱりするのです。この効果は麻布の特徴で、約800年前から行われているそうです。自然の力ってすごいですね。

kimono07_b.jpg手入れが簡単なのが1番の魅力

真夏のきものは、当然ながら暑いものです。それを、汗もかかずに涼しい顔で着るのが夏きもののダンディズムというものですが、本音を言えばできるだけ涼しく着たい。その点、小千谷縮は麻ですから素材としてその条件をクリアしています。「麻はシワになるから」と敬遠される方もいますが、多少のシワは味のうち。絹でも木綿でも座ればシワになります。また、麻のきものの良いところは、家でザブザブ洗濯ができてすぐ乾くこと。ネットに入れて洗濯機で洗った後、着物用ハンガーにかけてパンパンと叩いておくだけで、シワがピント伸びてアイロンがいらないのも魅力です。着る度に洗えるのは気持ちがいいですね。

きものとして、浴衣として
小千谷縮は、「きもの」としても「ゆかた」としても着ることができます。襦袢を着て半襟を出して夏帯を締めればきものになりますし、襦袢を着ないで半幅帯を締めればゆかたのように着こなすことができます。きものとして着る場合も、半襟や帯などの素材次第で単衣としても薄物としても着ることができるので、6月から9月まで色々な着方で楽しめます。そういう意味では、1枚で何役もこなしてくれると便利なきものといえますね。

買いやすい値段もうれしい
小千谷縮はお値段が安いのも魅力。繊細な手仕事による重要無形文化財の小千谷縮は別として、一般に流通している小千谷縮は5万円前後です。これなら手が出しやすいですね。「きものの着付けはできないけどゆかたなら大丈夫」という方にも、大人のゆかたとしておすすめです。木綿より上等な雰囲気になりますし、肌に張り付く木綿より麻の方が遥かに気持ちが良くて快適です。ただ麻は透け感があるので和装の下着は必要です。というわけでいいこと尽くしの小千谷縮。この夏ゆかたの購入を考えている方はぜひ検討してみてはいかがですか。(文/レディ東京編集者 中島有里子)

《 今月のワンポイント:草木染め 》

kimono07_c.jpg草木染めのきものも魅力的ですね。草木染めは通常、染料となる植物を煮出した液に灰などを加えて媒染して色を出しますが、クサギ(臭木)は媒染なしで鮮やかな水色に染まります。夏に白い花を咲かせ、秋になると赤いガクに宝石のような瑠璃色の実をつけるクサギ。この実の色からは想像もできないほど爽やかなブルーを生み出すのです。クサギという可哀想な名前は、葉に独特の悪臭がすることから付けられたそうです。
 

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更新日:2021年5月12日(水)