今月のコラム

NPO法人日本FP協会東京支部FPにおけるお金にまつわるお話 TAKE IT SLOW〜肩の力をちょっぴり抜いて
 
田村夕美子のハートフル『表現術講座』

 家事やダンナ様、お子様の世話、はたまた親同士の付き合いなど様々なシーンで、主婦たちはご多用です。しかしながら、自分以外の人々へ気苦労や努力を注いでも周囲からの評価が上昇することなど稀。というより、見返りなど考えたこともなく、主婦仲間が同士を演じることに安心感を得て、一日一日を楽しく過ごそうとしているのではないでしょうか?少しでも共感を覚えるのであれば、もうちょっとだけステキな軌道修正を考えてみましょう。誰も、“その他大勢の主婦”などいないのです。一人一人が、特別のはずなのです。今よりも更に“粋”に生きる方法。ヒントは日常生活の中に隠れているのです。皆さんも、是非探してみませんか?昨日よりも、笑顔の回数が増えるかもしれません。

 
第12回


●第十二回 想い出の背景にある『音』の数々。

 皆さんは幼少時代、どんな土地・場所で過ごされていましたか?そして、何を思い出されるでしょうか?私の場合は・・・細い路地、坂道。毎日夕方四時になると、聞こえる豆腐売りの音。空襲警報のサイレンを再利用し、朝の8時と夕方の4時半に“行ってらっしゃい”“お帰りの時間ですよ”を知らせていた“ウ〜”の音。夢中になって遊んだゴムとびや“人生ゲーム”。そういえば、想い出の背景には『音』が聞こえます。大人になって様々な夢を諦めたり、実現したりと日々を過ごしていますが、これから幾年が経過したら、今のコトガラが『音』となって思い起こされるのでしょうか?


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娘の夢を後押ししたい、希世子の母心。

 希世子は、ソワソワしています。それは、無理もありません。今日は、一人娘の合格発表の日。
都内の公立高校で、決してレベルが高い学校とはいえませんが、毎日、二年位前から流行った“キット勝”と捩ったチョコレート菓子を娘の勉強机へ並べて、母親なりに応援してきました。今まで、塾へも行かずに勉強など、ろくにしていなかった娘でしたが、昨年の秋になった頃から、少しずつ学習机の前に座る姿が見られるようになりました。娘の趣味はボーカル。何でも、プロへの道も視野に入れているらしく、音楽教室でボイストレーニングを熱心に受けていました。

「お母さん、スタジオレンタル代、貸してくれる?」

 口を開けば、お金の催促です。親であれば、ここは心を鬼にして娘に説教するのが普通でしょう。  でも、希世子は・・・

「お風呂で練習するだけでは、ダメなの?仕方がない、プロになったら何倍にもして返してよ」

 と、寛大に五千円札を娘の右手に握らせるのです。お財布のファスナーを閉める音と、娘の「ありがとう」の声が重なりました。娘に対して甘いのは、自覚している。でも、でも・・・


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夢を諦めた希世子の娘時代。

希世子の娘時代。とても大昔の話です。希世子も“おかあさん”になること以外に夢があったのでした。それは、舞台女優になること。希世子が小学校三年生の頃、ある劇団が田舎の公民館へ巡業に訪れたのです。
 ストーリーは、よく覚えていませんが、古代の中国を舞台にした内容だったと思います。“セドリ”という名前の男の子を演じていた役者さんに、釘付けになったのです。眩いピンク色の頬と真剣な眼差し。 幕間に、“登場人物へ応援の手紙をかきましょう!”という劇団側の演出があり、希世子は用紙をもらって、筆箱から“かきかたえんぴつ”を取り出し、『セドリへ・・・これからも気をつけて冒険の旅を続けてくださいー』と、綴ったのでした。ところが、今でも理由は良く解らないのですが、担任がその紙を取り上げたのです。すごく叱られたのを思い出します。
 『○○!』と声を荒げて叱責する担任。どんな言葉を希世子に向けたのか、覚えていません。それは子供であれば、大抵は怖がる雷の音のようにしか聞こえなかったのです。その後は、母にねだってミュージカルを観にいくようになりました。母も宝塚のファンらしく、同じジャンルの演劇鑑賞に連れていってくれました。希世子は、舞台の世界へどんどん引き込まれていったのです。“舞台の上に立つ人”になる。心に決めて、お芝居やダンスのレッスンをしたいと、母に打ち明けたのは、小学六年生の春。子供ながらにも、緊張して母に伝えたのを思い出します。宝塚ファンの母であれば、説得できるかも・・・との期待もありました。さて、返事は・・・

 『ダメ!何を考えているの?来年は中学生よ!○○!×××!!□□ー!!』

 とても堪えました。いくら子供とは言え、これからの人生の方向性を宣言しているにもかかわらず、母は相手にしなかったのです。
 “ダメ!”“中学生よ!”このセリフしか思い出せません。続きの言葉は、母の意見を正当化する、単なる効果音。希世子にとっては、未来を容赦なくとじ伏せる、厚く冷たい門から響くような、金属音にしか聞こえなかったのです。


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サクラが咲いた親子の春模様

 “さくらは、なんとか咲いたよ〜”

 娘から、合格を知らせるメールが届きました。希世子は、“ふーっ”と胸をなでおろします。

(よかった よかった・・・今日はご馳走をつくらないと・・・)

舞台女優の夢は叶いませんでしたが、優しい娘と、まあまあ理解のある夫に恵まれて、希世子は幸せな部族の一員だと自負しています。ただ、母親に自分が目指す道を反対されて、気持ちが萎縮してしまった経験は、娘が成長するたびに、思い返されるのです。

 “おめでとう!これで、好きな歌も再び、解禁だね。”

 希世子は娘宛に、メールを返信しました。好きなボーカルのレッスンを休んで、勉強に打ち込んでいた娘へ、ご褒美の意味もこめて、サクラ吹雪のデコレーションも添えたのでした。今日は、娘が好きなビーフシチューをこしらえようと、希世子は小さな決心をしました。100グラムあたり、400円くらいする黒毛和牛のお肉を奮発するのです。生クリームを仕上げに注ぐのが、娘はたまらないはずです。迷わず、クリームで三重丸を描いてあげる姿を想像すると、希世子は親馬鹿ぶりに我ながら苦笑するのでした。


***


希世子の背中を見続けた、娘の決心。

「おかあさん、私 歌は辞めるの・・・」

家族三人での食卓。ビーフシチューが盛られている皿へスプーンが滑り込む音が、一時中断しました。でも、それは希世子のみ。娘と夫は、相変わらず皿の方へ視線をむけたまま、スプーンの動作に夢中でした。

「どうして?インディーズから始めて、いずれはメジャーを目指すんじゃなかったの・・・」

“インディーズ”という言葉は、娘がしきりに言っていたので、希世子が覚えたものでした。もう、諦めたのでしょうか?それとも、別の道を目指そうというのでしょうか?それでも、良いでしょう。娘が決めたことを応援するまでです。キチンと娘と向き合って、ここは話を聞くとしましょう。

「まあ、あまりレベルが高くはないけど、あの高校では、ちゃんと勉強して、ソコソコの大学に入ってさ〜正社員で安定性のある夫を見つけようと、思うのよね〜。ママがお手本よ」

 急にお皿の中のブラウン色が、重々しく、深い色に見え始めました。娘は、希世子の背中を見ていたのです。又、昨今の時代背景も影響しているのでしょう。眩い夢など、語る環境などないのです。

「ママ、美味しいよ。今度、シチューの作り方教えてね」

 にっこりと、ホンネで語る娘がいます。ビーフシチューは、我ながら良い出来です。娘も本当に美味しいと思ったのでしょう。でも、これから教えるのはシチューの作り方ばかりではないと、決心しました。 希世子は、今年で四十代の終焉を迎えますこれからの年月、あとどのくらいあるのか解らないけれども、仮に七十代で人生の幕を閉じるのだとしても、残り二十年はあるのです。自分の心臓が、トクトク音を立てているのがわかります。

「これからの、ママを見てね。シチューづくりが得意なだけではないの・・・」

 幼少時代、雑音にしか聞こえなかった担任の叱責の声。母親のヒステリックな声。同じ年代を向かえ、通り過ぎた今でも、苦い思い出しかありません。舞台女優を目指して、実現できなかったのは、反対音を鳴らす人々のせいにしていただけなのです。娘には、これからの母親・希世子の背中を見て欲しいものです。舞台女優をめざす希世子なのか・・・それとも、まったく別の世界へ足を踏み出そうとしているのか・・・

「ママ、料理人を目指せば?」

娘の的外れなセリフで、笑い出す希世子です。でも、紛れもなく娘は心から、声にしてメッセージを贈っているのです。それは、これから始まる希世子の春を祝福する音にも聞こえました。

-終-


 
プロフィール

NFP 田村夕美子(たむらゆみこ)プロフィール
経理環境改善コンサルタント&ライター。企業にてサラリー経理ウーマンとして働く傍ら、夫が立ち上げたFP事務所にて、経理を主体とした事務系コンサルタントとして、ビジネス誌・女性誌への執筆やセミナー活動に従事している。中でも、決算書の読解術をベースとした、独自開発プログラム“データ変換術”と多様なシーンで活用できる“表現術”を盛り込んだセミナーには定評があり、人事系のビジネス雑誌にも、紹介している。著作は、日経ウーマンネット『進化する!一般事務職』他多数。
URL http://nfp.cc
E-mail tamura@nfp.cc
【田村夕美子公式ブログの紹介】
“会社をしあわせにする!事務系ホワイトになるヒントをお贈りする”
「風を贈るU」http://yumico.seesaa.net/
“等身大の女性活用”を問う小説
「季節風」http://kisetsufuu.seesaa.net/

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