今月のコラム

NPO法人日本FP協会東京支部FPにおけるお金にまつわるお話 TAKE IT SLOW〜肩の力をちょっぴり抜いて
 
田村夕美子のハートフル『表現術講座』

 家事やダンナ様、お子様の世話、はたまた親同士の付き合いなど様々なシーンで、主婦たちはご多用です。しかしながら、自分以外の人々へ気苦労や努力を注いでも周囲からの評価が上昇することなど稀。というより、見返りなど考えたこともなく、主婦仲間が同士を演じることに安心感を得て、一日一日を楽しく過ごそうとしているのではないでしょうか?少しでも共感を覚えるのであれば、もうちょっとだけステキな軌道修正を考えてみましょう。誰も、“その他大勢の主婦”などいないのです。一人一人が、特別のはずなのです。今よりも更に“粋”に生きる方法。ヒントは日常生活の中に隠れているのです。皆さんも、是非探してみませんか?昨日よりも、笑顔の回数が増えるかもしれません。

 
第2回

 暑中見舞いや、お中元。この時期は、真心を贈る相手先の表情を思い出す節目の時季です。まだまだ主婦の心配りが当然の時代なのでしょうか?正しきデータを見据えた上での意見ではないので、確かではないですが、テレビのニュースなどで取り上げているお中元戦線の様子の殆どは、主婦の方々が贈り物を厳選している表情を映し出しています。理想的なのは、お贈りする際にメッセージとして、近況を伺うようにすると良いのでしょうが、お互い暇ではないので、“近いうちにお目にかかりたいです。”と添えても、社交辞令で終わってしまうものです・・・
 今回は、今までの付き合い方からもっと違う方向性で“仲間”となり得るかもしれない、二人をご紹介します。


●第四場面『デパートの機械的な、中元DM』

 リビングで掃除機をかけていると、殆ど定時に配達物が送られてくる。今日も午前10時ちょっと前に、便りが新聞受けに挟まれた。A4サイズの少し厚みのある封筒だ。 「あーもうこの時季か・・・」宏美は、月日の流れの速さを視覚で捉えてしまう。もう、今年も半ばが経過して、梅雨も後半だ。 でも、A4サイズの封筒の上部にハサミを入れる時は、感情の行き来などない。バッサリと切り取り中身に目を通し始めると、やはり予想通りの書類が顔を出す。老舗デパートのお中元DMだ。しかも、昨年の送付先が印字されている注文書が加えられている。去年の人脈から、新しく仲間入りした友人・知人など度外視の世界。中には、付き合いが途絶えているのかもしれないのに、配慮のない営業だとしみじみ宏美は思うのだ。

(あーだって、ウチの人は今年異動になったから・・・この方は見送るは・・・)
(この方に去年お贈りしたら、倍返しが来たのよね。“もう来年から、結構です。”と言っているのよね・・・)

宏美は、デパートのDMを怪訝に批判しながらも、心の中で懐かしさを覚える名前を見つけた。

 (あー毎年、贈り物を頂くけれど、もう何年も顔を見ていないわ・・・)

 注文書に印字される氏名は、宏美のかつてのママともだち。今から5年以上も前、宏美の長女がミッション系の幼稚園に入園し、入園式の席でたまたま隣だったのが縁で、知り合った美智代という女性だ。その後、子供同士も友達になり、親同士の行き来もするようになる。小学校に子供が入学すると、しだいにママ友達の輪は広がる。しかし、美智代は子供を縁とした“ママ友”の輪には中々入ろうとしなかった。でも、宏美にはなぜか心を許しているのか、メールをたまに送信してくれていたのだ。そんな美智代は、子供を私立の小学校に転校させることにしたのだ。

 「宏美さん。ご迷惑でなければ、これからも“ママともだち”でいてください。」

お子さんの転校が決まったことを、いち早く教えてくれた美智代。なぜなのだろう?もちろん、美智代のことは嫌いではないし、子供のこともお世話になった場面が幾度もあったので、引越しをしてもたまに互いの子供を引き連れて、食事をすることくらい造作もないことだ。でも、お子さんに関して強すぎるまでの教育熱心から垣間見る信念を思い出すと正直、別に自分がママともだちでなくても、もっと志高いママ同士の集まりだってたくさんあるだろうに・・・と思ってしまう宏美なのだ。


***


●なぜ?中元を手控えた“ママともだち”からの暑中見舞い。

 “暑中お見舞い申し上げます。宏美さん、お元気ですか?よかったら、便りをお待ちしています。”

美智代から時節の便りが届いたのは、デパートの機械的なDMが届けられてから、10日くらい過ぎたころだろうか?子供同士の付き合いが途絶えるも、美智代からは毎年、宏美の誕生日にプレゼントが贈られ、お子さんの新しい小学校の授業体系をメッセージとして添えてくれる。宏美は、確かにありがたいとは思うが、特別自分のことを、教育ママだとは思っていないので、レベルの高い小学校の情報を聴いたところで、あまり興味は沸かなかった。美智代には、単なる御礼のつもりで、中元・歳暮を毎年贈っているだけに過ぎないのだ。しかし、逆に気を遣われるのであれば本末転倒だ。思い切って、年次の贈り物は差し控えようと決めたのだ。こちらはこちら。美智代は、新しい場所でお子さんと共に新規の友達を見つければ良い。こうやって気を遣うことなしに・・・そんな、ごく自然な思いやりの末、決めたことだっただけに、ちょっと鈍い痛みが宏美の心を刺した。

 “便りをお待ちしております・・・”
宏美は、微かに声をだして美智代からのメッセージを読んでみた。


***


●絵画からのメッセージにわが身を振り返る宏美。

 “お子さんとは、海にでも出掛けましたか?でも、お勉強が忙しくて中々難しいのでしょうか・・・”

宏美は、美智代からの暑中見舞いの返事として、便りを書くことにした。そういえば、最後にお誕生日のプレゼントくらいは、お返ししないと!と遅ればせながら、シルクの扇子も添えることにした。濃紺をベースに、白いドットを散りばめたオーソドックスな柄。清楚な美智代にはピッタリだ。以前、梅雨明けに、同じような柄の日傘を差していたのを思い出したのだ。きっとあの日傘とも合うはず・・・まあ、今でも持っていればの話だが。テレビ番組は、何やら絵画の歴史を映し出している。古典派から印象派云々。宏美は美術界のことなどまったくの素人だが、慌しい御昼時の番組よりも邪魔にならず、BGMもクラシカルで落ち着く。書き物や家事の際には、うってつけの番組だ。次の文章が見つからず、思案をしている最中にテレビ画面からふと、見覚えのある絵画が映し出されている。“ジョセフ・ビドー”『公園の木々の道』。
 何かを思い出したように、宏美はペンを置く。そして暫く、テレビに釘付けとなった。籐で造られた涼しそうなバッグから、手帳を抜き出す美智代。幼稚園のPTAの集まりで、メモを取るときの光景が思い出された。宏美は美智代の手帳に挟まれている、しおりに目がとまったのだ。どうやら、油絵らしい。有名な画家なのか?さすがに、品の良い美智代だと感心した。月並みな褒め言葉が口からこぼれた。

「素敵な、しおりをお持ちね・・・」
「ありがとう、この絵はお気に入りなの。ビドーの作品の中では、これが一番よ。」

すごく嬉しそうに語った美智代。それから、美智代は時折、絵画展に宏美を誘った。子供以外の話を聞くのは、そういえばあれが、初めてだった。宏美は、絵画に関心があったのではなく、世間離れした高貴なしおりを持つ、美智代に微かな敬意を表しただけなのだ。いわば、社交辞令に近いもの。でも、美智代は宏美が絵画に興味があると思ったらしい。

「スコットランドが、来るの!お時間空かない?来週から一週間なのよ・・・」

これが絵画展へ誘う最後の台詞だった。“スコットランド”は国の名前だということくらいは知っていたが、宏美にはチンプンカンプン。でも、絵画に関することだとは想像出来た。結局、言い訳を見つけて、行かなかった。美智代の誘いで、絵画展に行くことなど一度もなかった。興味がないのが、理由だけではない。重かったのだ。ホンネは、美智代とは単に子供を介した付き合いのみに留めたかったのだ。別世界の人に感じたからだ。テレビ番組のナレーターから、ようやく数年前の“スコットランド”の意味が解った。美智代が持っていたしおりは、ジョセフ・ビドー『公園の木々の道』の油絵が描かれていて、この作品は“スコットランド美術館”にあるのだということ。日も照らない公園。ベンチは誰も座っておらず、辺りの木々はうっそうとしている。手前は暗鬱を映すも、木々はすぐに抜けられる距離。ずっと先々も日が照らされている道。薄青空にやわらかな雲。
 その絵に描かれた、陰と陽。宏美は、美智代との回想と同時に、なぜか今年に入ってからの半年間を思い返した。ひな祭りが過ぎた頃に、驚かされた夫の転勤。マネージャーとしての腕を買われて、子会社への異動が内定した。実質は左遷。主婦暦が長い宏美でも、容易に想像できる。でも、収入が減るわけではなく、勤務地は逆に近くなったのだ。これは、前向きに捉えないと!と夫を励ました。違う・・・自分を励ましただけだ。夫の心中など考えても見なかった。日の照らない公園のベンチ、うっそうとした木々の中。ふと、そこに腰掛ける夫が脳裏に浮かぶ。
 美智代のことも・・・何度も絵画展へ宏美を誘ってくれた。言い訳を探して一度も行かなかった。子供の教育話も、美智代から一方的に聞かされるだけだった、実は、美智代は絵画や子供のことを口実に、宏美と心を通わせたかっただけではないのか?美智代は、木々の向こう側の明るい道の方を今、歩いているのだろうか・・・ 


***


●咲き続く晴天へと、『乾杯!』

「ありがとう。宏美さん。ジョセフ・ビドーのことで、お便りをもらって嬉しかったわ」

暑中見舞いを投函して、二週間後に宏美は美智代を自宅に招いた。何年振りだろうか?美智代の子供が一年生の二学期で転校して、今お互いに六年生だから、五年ぶりか?盛夏だというのに、美白な表情の美智代。宏美が贈った扇子も、ダイニングテーブルに置いてくれている。クーラーが効いているので、必要ないが、美智代の思いやりだろう。とにかく、今日は謝りたかった。社交辞令的なことしか出来ずに、あの頃、絵画展へも一緒にいけなかったこと。教育ネタも、一方的に聞くだけだったこと。本題の口火を切ろうと、美智代のグラスに冷たいハーブティを注ぐため、ポットを手にした。その時、美智代の掌がポットを持つ宏美の右手を包んだ。少しひんやりしている。そして、美智代の方から、会話の口火を切った。

「今まで、ごめんね。一方的で・・・宏美さんは、いつも優しいので甘えてしまって。子供が幼稚園時代から、よくしてもらっているので、ママともだちを超えた関わりをしたかったの。でも、私不器用だから・・・会話が見つからなくて。本当は私、絵画のことなんてあまり詳しくないの。」

それは、大方想像できた。でも、最近になって気づいたことだが・・・宏美は声にならない言葉を発しそうになったが、どうやら美智代の方が、言いたいことがたくさんあるようだ。暫く聞き役に徹しよう。

「子供を転校させたのも、実は今の学校が教育熱心だからじゃなくて・・・実は、子供はクラスに馴染めなかったの。何度も先生と話し合ったけれども、転校させてよかったのかと聞かれれば、あまり自信がない・・・でも、とりあえず新しい学校には元気に登校しているわ。」

少し伏し目で、語る美智代。そうか、“教育熱心”というのも、美智代の本来の姿ではなかったのか・・・こうして、昔のママともだちに心情を話して、気持ちが軽くなったのか?

「日向へ出ましょうよ。紫外線なんてUVケアしたら関係ないわ。そうだ、思い切ってビールでも抜かない?」

宏美は、ベランダにあるベンチへ美智代を誘う。高い位置にある、日の光が二人の主婦を照らす。冷たいビールを飲みながら、今度は宏美からこれまでの非礼を詫びることにしようか・・・でも、昔の過ぎた話に戻るのは相応しくない場面のような気がする。そう、なにも考えまい。お互いにとりとめのない会話を繰り返すくらいが丁度良いのでは?

「この本読んだ?やっと、手にしたのよ。」

美智代は、ビニール加工のバッグから分厚い本を取り出す。初めて、ジョセフ・ビドーのしおりを見たことを思い出した宏美。でも次の瞬間で回想は切れた。カバーを外したら、ベストセラーの小説本が顔を出したのだ。大衆的な一面も勿論ある美智代。ビニール加工のバッグも、大きな夏花をあしらっている大胆な絵柄だ。

(来年の夏は、“清楚”ではないものを贈ろうか・・・)

心の中で小さな決心をした宏美。でも、今年もまだ半年近くあるのだ。互いにホントのプロフィールを伝え合い、夢を語り合うことも楽しまないと!時間はたくさんある・・・これからも。ベランダから見える飛行機雲は、先々に続く晴天を思わせた。宏美はビールグラスを上に口にしながら、少しだけ夫のことも考えてみた。今日は好物を食卓に並べようか・・・夫にも、日向を味わわせるのだ。

-終-

 
プロフィール

NFP 田村夕美子(たむらゆみこ)プロフィール
経理環境改善コンサルタント&ライター。企業にてサラリー経理ウーマンとして働く傍ら、夫が立ち上げたFP事務所にて、経理を主体とした事務系コンサルタントとして、ビジネス誌・女性誌への執筆やセミナー活動に従事している。中でも、決算書の読解術をベースとした、独自開発プログラム“データ変換術”と多様なシーンで活用できる“表現術”を盛り込んだセミナーには定評があり、人事系のビジネス雑誌にも、紹介している。著作は、日経ウーマンネット『進化する!一般事務職』他多数。
URL http://nfp.cc
E-mail tamura@nfp.cc
【田村夕美子公式ブログの紹介】
“会社をしあわせにする!事務系ホワイトになるヒントをお贈りする”
「風を贈るU」http://yumico.seesaa.net/
“等身大の女性活用”を問う小説
「季節風」http://kisetsufuu.seesaa.net/

※新連載のご案内!・・・宝島社 『Steady.』2009年6月号より
“毎日ハッピーに働くお仕事ガール物語”

 
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