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柳澤ゆり子『和のある暮らしを楽しむ』


vol.5《 衣更(ころもがえ)の準備を始める 》
〜季節の移り変わりの様に少しずつ身の回りの衣更を始める頃〜

立夏を過ぎ、日射しは日々眩しさを増し、木々の緑も深みを増して参りました。 この季節を迎えますとそろそろ始めねばならないのが「衣更」の準備です。

◆「衣更」(ころもがえ)の楽しみ
 衣更とは季節にあわせて衣服をかえる習わしの事で、制服のある会社や学校ではたいてい6月と10月に衣更をいたしますね。
着物の世界でも5月に入ると先ずは長襦袢から単衣(一枚で仕立てたもの)にいたします。 続いて着物も、涼しそうに見える色や素材のものに袖を通しながら、早い方ではGW明け頃からは単衣にかえて参ります。昔と比較して気温が高くなっている昨今、いつから単衣を着るか、着て良いのかと言う話題は着物仲間の間では必ずでるテーマですが、正式な場でない限りはGW明け、5月中旬には・・・という意見が多い様に思います。
この頃重宝するのが、博多帯のような八寸帯とも呼ばれる単衣仕立ての薄手の帯です。着物・帯と少しずつ薄手のものに衣更していくと共に帯締めなども見た目に涼しそうなお色や平たくて暑苦しくないタイプにかえて参ります。しかし、いくら単衣を早めに5月から着用したとしても、半襟はまだ塩瀬にしておきます。季節の移り変わりと同じ様に一気にこの日から衣替え!ではなく少しずつ少しずつ衣替えしていくのが着物の良さであり楽しみでもあると感じます。

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※写真は下から上に向かって平たく涼しげに


◆「衣更」(ころもがえ)の歴史
江戸時代には4月1日(現在の5月上旬)に夏の衣に、10月1日(現在の11月上旬)に冬の衣にかえており、6月1日が夏の衣更の日となったのは明治時代以降の事だそうです。平安時代に始まったとされていますこの衣更、宮中行事として行われていた頃にはもっと細かく行われていたばかりか、衣類だけでなく調度・家具の類まで全て季節にあわせてかえていたのだとか。

◆現代生活での「衣更」(ころもがえ)
調度品や家具まで季節毎にかえるのはとても難しい事だと感じましたが、現代の生活においてもクッションカバーやテーブルクロス・テーブルランナーなどの布類をかえて楽しんでいらっしゃる方は多いのではないでしょうか。我が家でもテーブルクロスなどを季節によって少しずつかえておりますよ。

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※この時期に重宝する薄紫や青、緑など

 また、夏仕様の色・素材の器も少しずつ出していきたいですね。編んだ素材のコースターやかご類、江戸切子や琉球ガラス、アンティークのガラスなどを使いたくなる季節です。器の色も黒・茶・灰色といった陶器から白・青・緑といった薄手の磁器類が恋しくなってくるものです。

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※エジプトガラスのグラスやポーセラーツのレッスンで自作した赤珊瑚の茶器も
この時期にはとても重宝しています


◆おわりに

現代の生活において着物を日々着用なさる方は多くないと思いますが、「少しずつ」衣更を進める着物のように、「この日から」な衣更ではなく、身の回りの品々を季節の移り変わりと共に少しずつ衣更していくのも素敵だなと改めて感じています。現代を生きる忙しい私達にとってはまるまる一日を衣更に費やすことは難しくもありますので数時間ずつ何日かに分けて衣更をするというスタイルはぴったりかも知れません。
衣更のタイミングは大掃除のできるタイミングにもなりますので、不必要な物を手放して気分すっきりで新しい季節に向かいたいですね。

<参考文献>
日本国語大辞典 小学館発行

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◎ P R O F I L E ◎

yanagisawa_pro.jpg歳時記・和菓子研究家 柳澤ゆり子

パリへ行く!と思い立ち仕事を辞めて渡仏。自国の文化を学ぶ必要を強く感じ、帰国後は着物・煎茶道・和菓子・折形・風呂敷・金継などを学ぶ。ほんの一滴、和のエッセンスを加える事で潤う日々の暮らし。花・茶・和菓子といった身近なアイテムを取り入れることで、四季を感じる暮らしをもっと楽しんでいただけたら、そんな想いで地元鎌倉を中心に活動中。モットーは「美味しく楽しく美しく」。

季節の和菓子と日本茶を楽しむ会・風呂敷塾を主宰。
京都造形芸大(通信)和の伝統文化コース卒業/日本茶アドバイザー/風呂敷愛好家

更新日:2018年5月9日(水)